ソ連視点で見る大祖国戦争-第二次世界大戦前後 その3

間が空いたから、前回どこまで書いたか忘れてた。

ドイツの欧州侵攻まででしたね。この後の大祖国戦争の経緯をだらだらを話すのも面白いんだけど、ありきたりっちゃありきたり。この辺りは視点の有無というより事実の羅列になるので、ちょっと番外的に、いわゆる「暗黒時代」に対するソ連邦的視点でのお話。

暗黒時代

さて、同志スターリンと言えば粛清、というくらいにソ連邦、とくに内戦後のスターリン時代は惨憺たる時代のように語られる訳ですが、それに対してテンプレみたいな感じで、ソ連邦視点からの言い分ってのもある訳です。
今回はそこに、僕なりの資料の解釈も交えつつ、テンプレの解読をしていきましょう。


一応よくあるテンプレ的回答例。

同志スターリンの功績は、革命後間もない、只でさえ遅れた農業国だったソ連邦を就任から僅か2年で米帝を始めとする、帝国主義諸国に国際的に国家として認めれられる様にし、世界の大国にのし上がった点が大きいと思われます。
これは、多くの富農をはじめとする、資本家による強制労働があったと言われていますが、それ以上に経済をたった十年間で革命以前の状態を上回るまで引き上げたのは素晴らしいことではありませんか。
さらにこの重工業重視の政策はファシスト侵略者を打ち倒し、戦後の超大国に礎になっています。
「そんな事をしてるから国民の生活水準が上がらなかった」  
との反論があるようですが、この重工業力が無ければ、ファシストの侵略には耐えられなかったでしょう。「レンドリース」があったとは言え、それが効果を発揮するのはスターリングラード戦以降なので、この重工業重視政策は成功だと言えるでしょう。
また、旧態然たる赤軍に大規模な粛清をおこなうことで、指揮系統を徹底させ、革命後の軍閥的意識のあった革命武装集団を、赤「軍」という軍事機構とすることに成功したのです。

社会の安定

上記のテンプレがごっそり見落としてる部分が、当時のソ連邦の社会状況です。そもそも反スターリン化の一環として、後世のソ連国内または欧米で「暗黒時代」とか喧伝されたわけですが、言われるほどには実はスターリン時代のソビエト社会は暗くありません。


西側の典型的ソ連イメージ

確かに密告・粛正はあったけど、長く続いた帝政ロシアボルシェビキとの内戦の傷跡もようやく落ち着いてきて、衣食住ともに安定した社会になって、少なくとも都市部では国民はようやく近代的な生活を享受できるようになってきた頃。
レーニン時代はまだ国を統治する共産党自体が不安的だったし、党派同士の勢力争いでドンパチやってたので、本当に安定したのはその後のスターリン時代からなわけです*1
言ってみれば、「暗黒時代」と「黄金の時代」*2が共存していた時代。地方出身のほぼ文盲の労働者から身を立てて州や地方の指導層にのし上がるなんて真似が出来たのはあの時代くらいだろうし、ソ連が大国にのし上がったのは間違いなくスターリン時代だから。


同志スターリンへの感謝の気持ちにあふれる子供たち

社会主義建設」にも内戦後の復興にもソ連国民に未来への希望が存在し、各々の愛国心の発露があったことは間違いない。だからそんな時代が「暗黒」一色というのは無論ありえない。でしょ。

重工業化

ファシストとの全面対決のために重工業化が不可避であり、後進農業国から先進工業国への急速な転換のためにも粛清と農村の犠牲は必要だった、って視点はもっともらしいんですが、個人的には釈然としない話です。
共産党は都市政党だから農業には疎いわけですが、そもそも農村において、いわゆる共産党プロパガンダにおけるプロレタリアは存在しません*3。あくまでネップに対してのクラークという比較論的なもので農奴をプロレタリアとしているだけなので、実際のところ集団化を推進する過程で「政権に逆らう農民」=「クラーク」という経済的実態を伴わない把握に変化していったわけです。


たのしいのうぎょう

スターリン時代の場合、農を切って工を取ったというよりも、むしろ農をいまいちわかってなかったから工を取ったと考えています。ただ、これはスターリン時代だけの話ではなく、共産党とは性質としてそういうものだという話*4。土と面した共産主義は実に難しいですね。


今日はこの辺りで。上手く資料がまとめられず、ちょっと散漫になってしまいました......。いやいや、それはこうじゃないの? とか共産趣味同志のご指摘お待ちしております。次回もテンプレ解釈のつづきをやります。

*1:政治体制の激変後の安定化が他の手段ではできなかったかというと、これには明治日本という成功の例がありますが、交通インフラがある程度整備されてて、しかも都市人口の大半が文字読めたという稀有な状況と比較するのも微妙ですね

*2:粛清や密告をスターリン時代の全てのように言うのは問題だと思うんですが、農村の悲惨すぎる状況を無視することもできません。物事の悲劇性を理解できないようなら政治だの歴史だの勉強すべきじゃないですね

*3:一応、「富農(クラーク)」、「中農」、「貧農」、「農業労働者」という分類で農村を理解していたらしい

*4:ロシア的合理性かなぁとも思うのですが、これはまた別の機会でお話します