オススメゾンビ映画 ― 正しいゾンビ映画の楽しみ方2

ごきげんいかがですか? 水野晴郎です。昨日に引き続いて、今日も特別企画で、素晴らしいゾンビ映画をたっぷりと楽しんで頂こうと思います。
(中略)鏡を使ったりですね、ハイテンポのパンフォーカスを使ったりですね、このあたりの映像のテクニック、たっぷりとお楽しみ下さい。ごゆっくりとどうぞ。


いい加減水野晴郎ネタも尽きそうなものだが、この人はいつもこの調子で、どの映画にもこの語りが当てはめられる。聞いていると大抵の映画は凄い傑作のように思えるのだから、水野晴郎マジックだろうなぁ。シベリア超特急も本人の解説付きで見ると、一瞬だけ傑作に思えます。
それはさておき、前回はロメロ御大のゾンビ三部作をオススメした訳ですが、この三部作を知らなかったらゾンビ映画見るのなんか辞めた方がいい位の基本中の基本。もはや聖典みたいなものであり、この三部作見ずして「俺ゾンビ映画好きなんだよー」などと語ろうものなら即座にゾンビと化すことでしょう。で、今回は基礎を押さえた皆さんにオススメしたいのは、御大が生み出したゾンビをきちんとエンタメに昇華した作品の数々。やっぱ怖いだけじゃなくて楽しめなきゃいかんのですよ。

『THE RETURN OF THE LIVING DEAD

バタリアン [DVD]
タイトル見たら「ああーゾンビ映画か」とモロ分かりな本作。それが何故か日本で公開されると『バタリアン』という名前になるのだからよく分からない。昨今はゾンビ映画といえば「〜of the Dead」というのが結構周知されているようで、邦題もカタカナでこの調子なのだが、20年ほど前にもなればゾンビ映画の邦題は配給会社が日本語の限界にぶち当たったとしか思えないようなものがズラズラと並んでいた。『ゲシュタポ卍死霊軍団』とか、もはやハーケンクロイツではなくお寺のマークなのだが、ゲシュタポと寺と死霊が組んでなにをするというのか。
話がそれた。
ちなみに本作は東宝東和さんが当時配給したようだが、「バイオSFX」とかよく分からん触れ込みで、「UCLA生態研究所、メキシコ大学考古学研究所ほか、バイオSFXプロジェクト総結集!!*1」などと謳い、登場するゾンビにオバンバやらタールマンやら名前まで勝手に付けてしまうハイテンションぶりだった。お陰でVHSの吹き替え版なんかを見ると、ゾンビが出るたびに「オバンバ(吹き替え声優さんの名前)」などカオスな字幕まで出ていた。ここでピンと来たかもしれないが、オバタリアンの語源が『バタリアン』である。
この『バタリアン』だが、権利上では『NIGHT OF THE LIVING DEAD』の正当な続編となっている*2。ほんで期待しながら見てみると、あら不思議。非常によくできたパロディになっている。「そんな投げやりなオチなのかよ!」と誰もが突っ込んでしまうラストを除けば、ほぼ全編に渡って非常に楽しめる。ギリギリ子供と見てもいいんじゃないかなぁ。
トライオキシンという謎の物質が色々あって漏れてしまい、これが何故か死人を動かす不思議パワーを持っていて、墓地やら死体安置所なんかからゾンビがわっさわっさ出てくるというわけである。犬の剥製にトライオキシンが噴きかかって、輪切りになった剥製が台の上でひょこひょこ動くシーンなんかはギャグの世界だ。ともかく、ロメロの路線を踏襲するのは無理だと踏んだ監督のダン・オバノン*3が上手いことパロディにしたお陰で、楽しめるゾンビ映画となったわけだ。


本作は結構人気作だったので案の定続編が作られたのだが、2はセルフリメイク的な内容で凡庸。見なくてもいい。3はB級ホラー界ではかなり知られているブライアン・ユズナ*4が監督を務め、ロマンス要素を加えたゾンビ映画に挑んだが、いかんせん監督がB級しか撮らない人なので、内容は推して計るべしな状態。2000年代に4だの5だの撮られているのだが、まぁレンタル店の隅っこで嘘くさいオーラを放っている連中の中のひとつと考えていただければ問題ない。やはり映画は監督が大事だよなぁ、というお話。

死霊のはらわた(Evil Dead)』

死霊のはらわた [DVD]
あえて邦題で紹介するなら、この作品しかない。僕が初めて見た「死霊の〜」系はこれが最初だった。もし、これ以外の作品を見ていたらゾンビ映画にハマらなかっただろう、と言えるくらいマイベストな作品だ。「ロメロ以外で傑作は?」と聞かれれば、間違いなく本作をオススメする。
ストーリーはなきに等しく、話も山の中の小屋で進むだけだし、出てくる人も少ないし、ゾンビもそう多くはない。はっきり言って、あらすじだけ見ると全然面白そうには思えない。つか、あらすじは面白くない。「山小屋であんなことやこんなことをしようと思ってカップルが入ってみたら、死者の書が置いてあって面白そうだから開いたら悪霊が復活してゾンビ襲来主人公の拳が唸る!」とか、読んでて面白そうだと思うだろうか。じゃあ、なんでそんなにオススメなのよって、ともかくテンポが良くて、カメラワークが凄いのですよ。話が凡庸なのに、次はどうなるんだろうかと常に思わされ、カットが変わってビクっとさせられる。脚本が面白くないのに、見ていると面白いという、ホント素晴らしい作品なのだ。極限までホラーで「楽しめる」ことに挑んだ名作だ。
チェーンソー振り回したり、ボコボコに殴ったりと、やたら肉体派でゾンビとどっちが悪なのか分からんような振る舞いを見せる主人公もイかしている。主人公を務めるブルース・キャンベルがこれまたカメラ映えしない濃い奴なのも良い。この人が主人公務められるのは本作だけだろう。
こんな名作を生み出した監督の名前をサム・ライミ*5という。天才は最初から天才だ。天才ぶりとは関係ないが、カメラが悪霊の視点で素早く移動する時に響く「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」という音はライミ自ら吹き込んでいる。映画を撮るのが好きでしょうがないのだろう。


ほんでまたまたこいつにも2があるのだが、この2は予算不足でセルフリメイクになってしまい、内容は全く同じである。多少出てくる悪霊が派手になったくらい。一作目で満足した方は別に見なくてもいいのだが、次で紹介する作品に繋がるオチなので、一応見ておいてもらいたい。

キャプテン・スーパーマーケット(ARMY OF DARKNESS)』

死霊のはらわたIII キャプテン・スーパーマーケット [DVD]
これもあえて邦題で紹介しておきたい。またしても東宝東和さんなのでタイトルはさっぱりだが、『死霊のはらわた*6の続編である。最初に言っておくと、すでにゾンビ映画ではない。よくできたファンタジー映画だ。もうちょっと見栄えのする、ブルース・キャンベル以外の俳優を揃えて、どかどか金をかければ、スパイダーマンに匹敵するくらいにはできそうに思える面白さがある。ライミ自身もこういうのが撮りたかったというから、徹底してエンタメ向きの人なんだろう。
ゾンビ映画ではないので、このあたりで紹介は止めておく。ライミのゾンビ映画、というのがもう見れないかもしれないのは残念だが、それはそれでいい。ロメロ御大とは違う方向で、ライミは賞賛されるようになった。それは素晴らしいことじゃないですか。

*1:考古学研究所がなぜSFXプロジェクトに参加しなければならないのだろうか

*2:続編の権利を売ったので、ロメロはノータッチ。御大はハリウッドとは縁がないのでいつも金欠なのだ

*3:『エイリアン』の脚本家。人外が出てきて暴れる映画の脚本には定評があった

*4:ホント感心するがこの人の経歴でA級の映画は一作しかない

*5:スパイダーマン』の監督、と言えば分かる?

*6:正確にはセルフリメイクの2の方